YouTubeショートにTikTok、Instagramのリールなど、どのSNSを開いてもショート動画は中核的なコンテンツとなっている今の時代。
たった数十秒から1分ほどの動画なので気軽に楽しむこともできますし、短い動画の中に笑いのポイントやタメになる情報などが凝縮されているので、ちょっとした空き時間を埋めるには最適なコンテンツと言えます。
「最初は1本だけ見るつもりだったのに、気づいたら何時間もショート動画を漁っていた…!」なんて経験がある人もいるかもしれません。
適度な時間でショート動画を楽しむ分には問題ないですが、少しでも時間が空くとショート動画を見てします、何かショート動画を見ていないと落ち着かない、ショート動画を見る以外にやることが思いつかない…となってくると、それは「ショート動画中毒」と呼んだ方が良いでしょう。
このショート動画の中毒者は、特に若者を中心に今や世界的に急増しているのです。
そこで、中国・煙台大学の研究者は、ショート動画の見過ぎが「生活の質」にどのような悪影響を及ぼすかを調査しました。
その結果、ショート動画の視聴時間が長い人ほど、睡眠の質が悪く、社会不安を抱きやすい傾向があることが分かったのです。
参考文献
元論文
https://bmcpsychology.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40359-024-01865-9
中毒者は「1日平均125分」もショート動画を見ている
ショート動画とは、一般的に15秒~90秒程度に収まる、短い形式で作成された動画コンテンツのことを言います。
YouTubeショートは60秒の縦型動画、TikTokは15秒から最大10分、Instagramのリールは最大90秒の縦型動画となっています。
こうした動画はテンポの速い編集がされており、キャッチーな音楽に乗せてトレンドになっているトピックや面白動画などが投稿されています。
視聴者側のすばやい注目を引くようなコンテンツデザインになっているのが特徴です。
また、TikTokやInstagram、YouTube、XといったあらゆるSNSプラットフォームで共有できるのも大きな武器となっています。
こうした強みから、ショート動画は若者を中心に爆発的な支持と人気を集めるようになりました。
中国インターネット情報センター(CNNIC)による2021年の調査では、同国のショート動画ユーザーは約9億人に達し、ネットユーザー全体の約88%を占め、1日のショート動画視聴時間は平均125分ということが分かり、半数以上が毎日欠かさずショート動画を見ていたことが報告されています。
動画単体が一本一本短いとはいえ、多くの人が毎日2時間以上ショート動画を見ているということになるので、消費時間としては映画を毎日一本分見ているのに等しい状況といえるでしょう。
なぜ、ショート動画はこれほど中毒性が高いのでしょうか?
まず第一に挙げられるのは「動画時間の短さ」になります。
数十秒ほどで視聴できるというのがショート動画の最大のメリットとなっているため、手軽に見やすく、たとえつまらなかったとしても時間を無駄にしたと感じにくいのです。
視聴前に抱くリスクが少ないため、一度見始めるとどんどん次のショート動画を探すようになります。
第二に挙げられるのは、先ほど説明した「短い時間の中に刺激的で面白いポイントが凝縮されていること」になります。
ショート動画はたった数十秒間で、笑いや流行のトピック、過激な内容がサクッと楽しめるような作りになっています。
手軽に刺激物が得られるので、極端なことを言ってしまえばポルノと同じような作用を持っているのです。
そして第三に挙げられるのは、プラットフォームのアルゴリズムになります。
SNSのアルゴリズムはユーザーの閲覧履歴を学習するため、ユーザーが好きそうなコンテンツを自動でおすすめするシステムとなっています。
ショート動画は画面をスクロールするだけで次々と視聴していけるため、永遠とショート動画を見続けてしまう循環ができるのです。
いくら一本の動画が短くても、こうしてショート動画の沼にハマって1日の多くの時間を動画視聴に費やしてしまえば、生活にも悪影響を及ぼしてきます。
そこで今回の研究は、ショート動画中毒者の生活に、どのような影響が現れているかを調査しました。
ショート動画中毒者は「社会不安レベル」が高まっている傾向があるのが判明
研究チームはショート動画中毒者の生活の質に及ぼす影響を明らかにするべく、中国・山東省の高校1・2年生を対象に実験調査を行いました。
参加者は約1600名で、男女ともに約800名ずつ、年齢は16~17歳となっています。
調査では専用の質問票を使って、ショート動画への依存度・睡眠の質・社会不安レベルを評価しました。
データ分析の結果、ショート動画の視聴時間が多い学生ほど、睡眠の質が悪くなり、社会不安のレベルが高くなる傾向にあったことが確認されました。
何故、ショート動画の視聴時間が増えると、社会不安につながるのでしょうか。
この研究はあくまで相関関係を示したものであり、因果関係までは明確になっていませんが、これまでのショート動画の影響に関する研究報告などを含めて、いくつかの考察が上がっています。
その1つとして、ショート動画の視聴が他者と自分を比較する機会を増やしてしまうという問題が浮上しているのです。
ショート動画ではモデルのような同年代が登場するものも多く、ショート動画をよく見る若者ほど自身の外見イメージが悪化する傾向が報告されています。
こうした問題はどのコンテンツでも起こる可能性がありますが、短い動画を短いスパンで大量に見ていくことで、自分に対する不安感を増大させる恐れがあります。
また、動画視聴に時間を使いすぎることで、後になって時間を無駄にしてしまったという焦燥感を感じる人もいることが分かり、これも不安感の増大に関与していることが分かります。
なにより、短い動画を連続して視聴していく行為は、自分が考えているよりも精神的な疲労を溜めやすいため、暇つぶしでショート動画を見ていたつもりでも、気づいたらひどく疲れてネガティブな思考に陥りやすい状況になる場合も多いようです。
自分はショート動画を見て楽しんでいるつもりなのに、自覚もなく不安感が大きくなっていると言われると少し怖く感じますよね。
研究者らはショート動画中毒を解消して、生活の質を維持するために何らかの対策をする必要があると考えています。
ショート動画の視聴時間を減らすにはどうしたら良い?
ショート動画中毒を回避する方法は「見るのをやめること」になりますが、それで簡単にやめられるなら苦労はしないものです。
そこで、ショート動画の視聴を回避するいくつかのコツが挙げられます。
まずはTikTokやInstagram、YouTubeなどのショート動画を提供しているSNSのインストールを絞ることです。
全てのSNSをインストールしていれば、それだけショート動画に触れる機会が多くなるものです。
友達とのコミュニケーションや情報収集に最低限必要なSNSだけを残して、後は思い切って削除する方が良いでしょう。
SNSを削除するのはちょっと…という人は「非表示」「チャンネルをおすすめしない」「アプリの通知をオフ」といった機能を活用することをおすすめします。
また、スマホに触って良い時間を決めておいたり、タイマーアプリを使って決まった時間だけ見て良いことにするといった自分なりのルールを設けても良いかもしれません。