低所得者層に月額2300円以下でインターネットサービスを提供することを義務付けるニューヨーク州の「手頃な価格のブロードバンド法(Affordable Broadband Act: ABA)」を巡る裁判で、アメリカ合衆国最高裁判所は上訴を受理せず、業界団体の異議申し立てを却下しました。この結果、ニューヨーク州法が引き続き有効であることが確定しました。
参考文献
• Joint Statement on Supreme Court Denial of Certiorari in New York Affordable Broadband Act Review | NTCA – The Rural Broadband Association https://www.ntca.org/ruraliscool/newsroom/press-releases/2024/16/joint-statement-supreme-court-denial-certiorari-new
• Big loss for ISPs as Supreme Court won’t hear challenge to $15 broadband law – Ars Technica https://arstechnica.com/tech-policy/2024/12/big-loss-for-isps-as-supreme-court-wont-hear-challenge-to-15-broadband-law
• Supreme Court quashes Big Telecom’s attempt to avoid New York State’s low-income price regulation | TechSpot https://www.techspot.com/news/106001-supreme-court-refuses-hear-big-telecom-challenge-new.html
• SCOTUS Won’t Hear Challenge To New York $15 Broadband Law 12/17/2024 https://www.mediapost.com/publications/article/401923/scotus-wont-hear-challenge-to-new-york-15-broadb.html
ABA制定の背景と内容
ニューヨーク州は2021年、低所得者層でも安定したブロードバンド環境を利用できるようにするため、インターネットサービスプロバイダー(ISP)に割引プランの提供を義務付ける法律を制定しました。この法律では、
- 25Mbpsの速度プランを月額15ドル(約2300円)以下
- 200Mbpsの速度プランを月額20ドル(約3100円)以下
で提供することが求められています。この施策により、低所得者層のデジタルデバイドを解消し、インターネットを基本的な生活インフラとして利用できる環境を整備することが目的とされています。
また、この法律の制定は、教育や就業のデジタル化が進む中で、全ての住民がインターネットを利用する機会を得られるようにするというニューヨーク州の強い意志を示しています。これにより、州内の低所得世帯は教育や就業の機会をより公平に享受できるようになることが期待されています。
業界団体の反発と法的対立
ブロードバンド関連のロビー団体は、ニューヨーク州がISPを規制することに反発し、「ブロードバンドに関する規制権限は連邦政府にのみある」と主張。ABAは連邦法に反するとして地方裁判所に異議申し立てを行いました。
初めに地方裁判所はロビー団体の主張を認め、ABAの効力を一時停止しました。しかし、第2巡回区控訴裁判所は「2018年に連邦通信委員会(FCC)がネット中立性規制を撤廃したことは、ニューヨーク州が独自にネットサービスを規制する権利を妨げるものではない」と判断。この判決により、ニューヨーク州法は有効とされました。
控訴裁判所のアリソン・ネイサン判事は「連邦政府が自らに規制権限がない分野の規制から州を除外することはできない」という意見を述べ、地方裁判所の判断を覆しました。この判決は、州が独自のインターネット規制を行う権限を支持するものとして注目されました。
最高裁の決定とその影響
その後、業界団体は最高裁判所に上訴しましたが、2024年12月、最高裁は申し立てを受理せず、審理もしないことを決定しました。この決定により、ABAの有効性が改めて確認され、低所得者層向けの割引プランが引き続き提供されることとなりました。
最高裁の決定は、多くの低所得者層にとって歓迎されるニュースであり、州政府が地域特有の課題に対応する法整備を行う余地を示す重要な判例となりました。
ロビー団体は「他の州もニューヨーク州に追随する可能性がある」と主張し、州ごとに異なる規制が競争を妨げる懸念を訴えていました。しかし、ニューヨーク州司法長官のレティシア・ジェームズ氏は「ABA制定から3年以上が経過しているが、同様の法律を制定した州は他にない」と反論。この主張は裁判所に受け入れられませんでした。
今後の展望
今回の最高裁の決定は、低所得者層のインターネットアクセスを保障する取り組みを支持するものとして注目されています。ニューヨーク州のように、州独自でデジタル格差を解消しようとする動きが他州にも広がる可能性があり、ブロードバンド環境の公平性向上に向けた議論がさらに活発化することが期待されます。
さらに、インターネットが社会インフラとして重要性を増す中で、このような法律が教育、就労、医療などの分野で低所得者層の生活を支える一助となることが期待されています。また、デジタル格差を解消する動きが進むことで、地域間の経済的な不平等を緩和する効果も期待されます。