プレス機でも潰せない強靭すぎるガラス『オランダの涙』とは?

銃弾やプレス機すら寄せ付けない涙のような形のガラス。

『オランダの涙』や『プリンス・ルパートの滴』と呼ばれるこの不思議な物体は、驚異的な強さと脆さという相反する特性を兼ね備えています。

20トンもの圧力に耐えられる一方で、尻尾の部分を折ると全体が一瞬で粉々になるという、非常に独特な性質を持っています。

この不思議なガラスがどのようにして生まれ、なぜそのような特性を持つのかを解説します。

参考文献

We’ve Finally Cracked The Secret of Prince Rupert’s Drops

On the extraordinary strength of Prince Rupert’s drops

The explosive disintegration of Prince Rupert’s drops


オランダの涙とは?

「オランダの涙」とは、オタマジャクシのような形をしたガラス製の物体で、17世紀のヨーロッパでその存在が知られるようになりました。

「プリンス・ルパートの滴」という別名は、1661年にイギリスで行われた実験に立ち会ったカンバーランド公ルパートにちなんで名付けられたものです。

このガラスの物体は、驚異的な強度を持つことで知られています。

SNSや動画サイトには、プレス機や銃弾で実験される様子が投稿されており、多くの人々を驚かせています。

ある動画では、20トンの圧力を加えるプレス機がオランダの涙に挑むも、全く損傷を与えられず、逆にプレス機の方がへこんでしまう様子が映し出されています。


オランダの涙の強さの秘密

オランダの涙は、驚くほどシンプルな方法で作られます。

溶けたガラスを冷たい水に滴下するだけで完成します。

しかし、この簡単な作成過程にこそ、オランダの涙の強靭さの秘密が隠されているのです。

溶けたガラスが水に触れると、まず外側が急激に冷やされて固まります。

一方で、内部はまだ高温の液体状態を保っています。

この温度差が原因となり、ガラス内部には強い引張応力が、表面にはそれに対応する圧縮応力が発生します。

この2つの力がオランダの涙全体を不安定な平衡状態に保つと同時に、表面の圧縮応力がガラスの強度を著しく高める役割を果たしているのです。

2016年の研究によれば、この表面の圧縮応力は400~700MPa(大気圧の4000~7000倍)に達することが報告されています。

この性質は、現代の強化ガラスの製造原理にも通じています。


弱点の尻尾は全体を破壊する鍵

オランダの涙には、驚異的な頑丈さを持つ一方で、尻尾の部分に致命的な弱点があります。

尻尾を軽く折るだけで、全体が爆発的に粉々になるのです。

この現象の原因も、内部の引張応力と表面の圧縮応力という平衡状態にあります。

尻尾を折ると、このバランスが一気に崩れ、内部に蓄積されたエネルギーが解放されます。

このエネルギーは、ガラス全体に連鎖的に伝播し、瞬時に全体を破壊してしまうのです。

1994年のケンブリッジ大学の研究では、オランダの涙内部を亀裂が伝播する速度が最大6840km/hに達することが明らかにされました。

この驚異的な速度が、尻尾を折ると全体が瞬時に砕ける理由です。


科学的好奇心を刺激するオランダの涙

オランダの涙は、ガラスの物理特性を学ぶ上で非常に興味深い対象です。

極端な強さと脆さを併せ持つその特性は、研究者や科学愛好家たちの注目を集めています!

その作成方法が簡単であるため、学校の科学実験や動画コンテンツなど、さまざまな場面で利用されています。

一方で、強化ガラスやその他の構造物の設計にも応用される可能性を秘めており、現代の技術に影響を与える興味深いテーマでもあります。


不思議な物体に込められた科学の魅力

オランダの涙は、一見して単なるガラスの滴のように見えるかもしれません。

しかし、その内部には自然の法則が生む驚異的な力と、美しくも脆い特性が秘められています。

この物体は科学的な好奇心をかき立て、ガラスという身近な素材の奥深さを改めて、感じさせてくれます。

頑丈さと脆さという相反する性質を併せ持つオランダの涙は、科学の魅力を語る上で欠かせない象徴的な存在といえるでしょう。

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