ニュージーランドの孤島に生息するシュレーターペンギン(学名:Eudyptes sclateri)は、独特の繁殖行動で知られています。彼らは最初に産んだ卵を捨て、2個目の卵だけを育てるという一見不可解な習性を持っています。この行動は鳥類としては異例で、長らく研究者たちの謎でした。
しかし、2022年にニュージーランド・オタゴ大学の研究チームが発表した論文によって、この行動の背景が明らかになりました。その理由は、一見奇妙に思える行動が彼らの生存戦略に深く結びついているためでした。
参考文献
Why erect-crested penguins reject their first egg and lay a second one
最初の卵を捨てる理由
シュレーターペンギンのメスは通常、5日間の間隔をあけて2つの卵を産みます。しかし、最初の卵は小さく、親はそれを放棄することが多いのです。ニュージーランドのアンティポデス諸島やバウンティ諸島で行われた調査では、シュレーターペンギンの45%が最初の卵に触れず、90%以上の親がその卵を岩場に産み落としたまま放置していることが確認されました。放置された卵は転がり落ちたり、割れてしまうこともありました。
なぜ最初の卵を捨てるのか。研究によれば、その理由はシュレーターペンギンの親鳥が2羽のヒナを同時に育てるだけの食糧を確保できないためです。シュレーターペンギンは沖合で餌を探しますが、一度に持ち帰れる食糧の量が限られており、2羽のヒナを育てようとすると、どちらも成長できず死んでしまうリスクが高まります。そのため、親鳥はより大きく育ちやすい2個目の卵を選んで育てるのです。
特異な卵のサイズ
シュレーターペンギンの卵には特筆すべき特徴があります。通常、鳥類では後から産む卵ほど小さくなる傾向がありますが、シュレーターペンギンでは2個目の卵が1個目よりも平均85%も大きいのです。このサイズ差は鳥類全体の中でも最大級です。2個目の卵が大きいことで孵化率が高まり、親鳥が1羽のヒナに集中して育てられる利点があります。
過去の繁殖習性の名残
「では、最初から大きな卵を1つだけ産めば良いのでは?」と疑問に思うかもしれません。研究チームによれば、これはシュレーターペンギンの進化の過程で受け継がれた繁殖習性が関係しています。他のペンギンと共通の祖先を持つシュレーターペンギンは、かつては2個の卵を産んでいたものの、現代では環境条件の変化により最初の卵を犠牲にする行動を選択するようになったと考えられています。
環境変化と存続の危機
シュレーターペンギンは地球上で最も孤立したペンギン種の一つであり、その生態は未解明な部分が多くあります。孤立性ゆえに人間の活動からある程度守られているものの、温暖化による影響で餌となる魚の減少が深刻化しており、種の存続が危ぶまれています。
過去50年間で個体数は激減し、現在では絶滅危惧種に指定されています。シュレーターペンギンを守るためには、生態系全体の保護が急務であると研究者たちは警鐘を鳴らしています。
おわりに
シュレーターペンギンの最初の卵を捨てる行動は、親鳥が限られた資源で次世代を生き延びさせるための切実な戦略でした。この行動は彼らの環境に適応するために進化した結果であり、自然の厳しさと共存の美しさを教えてくれます。
人類がシュレーターペンギンの謎を解き明かすことは、彼らの保護に繋がる重要な一歩です。彼らの生態を知ることで、温暖化や環境破壊による影響を軽減し、種の存続を支える手立てが見つかるかもしれません。