キュリー夫人を救ったアインシュタインの言葉――「アンチは無視しろ」

1911年、女性科学者としての道を切り開いたマリ・キュリー夫人は、人生で最も苦難の時期を迎えていました。彼女は5年前に最愛の夫ピエール・キュリーを失い、その後、彼の元弟子であるポール・ランジュバンとの関係をきっかけにメディアや世間から激しいバッシングを受けていたのです。さらに、当時の社会は「女性」というだけで科学者としての功績を正当に評価しない風潮があり、彼女の存在そのものが批判の対象となっていました。

そんな彼女に、天才物理学者アルベルト・アインシュタインが一通の手紙を送りました。その内容は、彼女の知性を称賛し、アンチたちを痛烈に批判するものでした。

参考文献

ZME Science: “In 1911, Einstein wrote a letter to Marie Curie, telling her to ignore the haters”

Farnam Street: “Albert Einstein to Marie Curie: Haters Gonna Hate”

IFL Science: “Albert Einstein Told Marie Curie To Ignore The Haters”

激動の背景――キュリー夫人の試練

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マリ・キュリー夫人(1867–1934)は、ポーランド出身の化学者・物理学者であり、1895年にフランスの物理学者ピエール・キュリーと結婚しました。彼女は夫とともに放射能の研究に尽力し、1903年にはノーベル物理学賞を夫と共同で受賞しました。女性初のノーベル賞受賞者という歴史的偉業を成し遂げた彼女でしたが、その道は決して平坦ではありませんでした。

1906年、夫ピエールが交通事故で急逝し、キュリー夫人は精神的にも肉体的にも苦しい日々を過ごしました。しかし彼女はその悲しみを乗り越え、研究を続けました。そして1910年には、夫の元弟子であるポール・ランジュバンと出会い、彼との交流を深めました。彼は既婚者でしたが、妻との関係は冷え切っており、別居状態にありました。そんな中で2人は互いに惹かれ合い、恋愛関係に発展したのです。

しかし、ランジュバンの妻が2人の関係を察知し、彼らの手紙を盗み出してマスコミに公開。このスキャンダルは当時の大衆を大いに煽り、キュリー夫人は「家庭を壊すユダヤ女」などの侮辱的なレッテルを貼られました(彼女はユダヤ人ではありません)。

さらに、この頃フランス科学アカデミーの会員選挙に立候補していた彼女は、女性と外国人であることを理由に落選。キュリー夫人は学術界でも孤立を深め、心身ともに追い詰められていました。


アインシュタインの手紙――痛烈な励まし

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そんな中、彼女がベルギーで開催されたソルベー会議に出席した際、アルベルト・アインシュタインはキュリー夫人の知性と人柄に感銘を受けます。当時、彼女のスキャンダルはヨーロッパ中に広まり、家の前には群衆が押し寄せ、投石までする騒ぎとなっていました。この状況にアインシュタインは激しい怒りを覚え、彼女に向けて以下のような手紙を書き送りました。

敬愛するキュリー夫人へ
世間があなたを卑劣な方法で取り上げていることに、私は激しい怒りを覚えます。あなたの知性、行動力、誠実さを深く敬服しております。もし今後も愚劣な大衆があなたについて騒ぎ立てるようなら、そんな戯言は読まず、それを捏造した「爬虫類ども」に放っておけばよいのです。

この手紙は、彼女にとって大きな支えとなり、キュリー夫人は再び研究に没頭しました。同年、彼女はラジウムとポロニウムの発見により、ノーベル化学賞を受賞。史上初の「異なる分野で2度ノーベル賞を受賞した人物」となりました。


科学者同士の友情と連帯

https://www.iflscience.com/albert-einstein-told-marie-curie-ignore-haters-26525

キュリー夫人とアインシュタインは、その後も親交を深めました。彼らはお互いの家族ともども休暇を共に過ごし、友情を育んだといいます。そして1934年、キュリー夫人が亡くなった際には、アインシュタインが彼女の追悼式でその偉業を称賛するスピーチを行いました。

彼女が生きた時代は、女性科学者にとって過酷なものでした。それでもキュリー夫人は、科学への情熱を絶やさずに乗り越え、多くの功績を残しました。アインシュタインの言葉は、彼女のように逆境に直面する全ての人々へのメッセージでもあるでしょう。


キュリー夫人の人生とアインシュタインの手紙は、科学者同士の連帯がいかに重要であるかを教えてくれます。困難に直面しても信念を曲げず、自分を信じる勇気が、時代を切り開く力となるのです。

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