再使用型ロケットが切り拓く!日本の宇宙輸送H3ロケットとは

日本の宇宙活動を支える基盤として重要な役割を果たす「宇宙輸送」。人工衛星の運用や宇宙探査機の打ち上げ、さらに将来的には有人宇宙探査まで、これらのミッションを可能にするのが宇宙輸送システムです。2024年の7月から11月にかけて、文部科学省が中心となり、宇宙輸送の今後の方向性について議論が行われました。その中で、日本の基幹ロケット「H3」や固体ロケット「イプシロンS」、そして将来を見据えた新宇宙輸送システムの可能性が検討されています。


H3ロケットの現状と未来

運用段階に入ったH3ロケット

日本の基幹ロケットであるH3は、2024年7月に3号機が先進レーダー衛星「だいち4号」の打ち上げに成功し、無事運用段階に入りました。10月には、Xバンド防衛通信衛星「きらめき3号」の打ち上げにも成功し、静止軌道への衛星投入を果たしました。今後は、2025年度に予定されている固体ブースターなしの新型H3(30形態)の打ち上げを目指し、1段エンジン「LE-9」の開発が進行中です。

段階的アップグレードと新基幹ロケットへの移行

H3の開発では、SpaceXが採用している「ブロックアップグレード」方式を取り入れています。これは段階的にロケット性能を向上させていく方式で、2030年代にはH3を次世代基幹ロケットへシームレスに移行させる計画です。これにより、H3の打ち上げ能力は大幅に強化され、静止衛星の大型化や複数衛星の同時打ち上げといった新たな需要に対応できるようになります。


固体ロケット「イプシロンS」の課題

一方、固体ロケット「イプシロンS」は、2024年11月の2段モータ地上燃焼試験に失敗し、打ち上げ計画が不透明な状況にあります。2024年度中に予定されていた実証機(1号機)の打ち上げが延期されることが確実となり、現状ではH3のみが基幹ロケットとしての役割を担っています。


日本の宇宙輸送技術を支える「式年遷宮」の思想

JAXAの岡田匡史理事は、ロケット技術を継続的に維持するには、20年に1度は新しいロケットを開発することが必要だと述べています。この「式年遷宮」のような考え方は、技術者の世代交代を円滑に進めるだけでなく、長期的な技術力の保持にもつながります。また、老朽化した射場設備の更新や運用技術の向上も重要な課題です。


再使用型宇宙輸送システムの開発

SpaceXの影響と日本の挑戦

再使用型宇宙輸送システムは、世界的に注目されている技術分野です。SpaceXの「Falcon 9」による再使用技術の実現は、宇宙輸送のコスト削減と高頻度運用を可能にしました。日本でも「RV-X」や欧州との共同プロジェクト「CALLISTO」を通じて、再使用型ロケットの実証が進められていますが、進捗には課題が残っています。

再使用技術の要素開発

再使用を実現するためには、以下の要素技術が求められます。

  • 帰還用燃料や着陸脚を含む設計技術
  • 軽量化素材の活用
  • メタン推進剤や3Dプリンティング技術
  • 短時間で整備可能な運用体制

民間主導の「新宇宙輸送システム」

民間企業の役割

政府主導の基幹ロケットに加え、民間企業による次世代宇宙輸送システムも注目されています。2040年代には、民間が主導する宇宙ステーションへの輸送や有人宇宙飛行が実現されることを目指しています。また、大陸間をロケットで移動する「二地点間高速輸送(P2P)」や宇宙旅行市場の開拓が進む可能性があります。

宇宙旅客輸送推進協議会(SLA)の活動

2021年に設立されたSLAは、日本発の民間宇宙輸送を推進するための団体で、約20社が参加しています。この協議会は、有人宇宙輸送の技術課題を洗い出し、2040年代の実現に向けたロードマップを作成しています。


宇宙輸送の未来への展望

日本の宇宙輸送システムは、基幹ロケットの段階的発展と民間主導の新システムの両輪で進化を遂げようとしています。これには、政府の資金支援やJAXAの技術提供、民間企業の参入が不可欠です。10年間で総額1兆円規模の「宇宙戦略基金」を活用しながら、日本の宇宙輸送技術がどこまで成長するのか、今後の動向に期待が寄せられています。


日本が国際的な宇宙輸送市場で確固たる地位を築くためには、技術開発と市場開拓を両立させることが求められます。これからの挑戦がどのような成果を生むのか、引き続き注目していきましょう。

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