新しい言語を効率よく学ぶ鍵は、意外にも睡眠にありました。
南オーストラリア大学の研究チームは、脳が睡眠中に記憶を整理する仕組みを解明しました。
このプロセスの中心となるのが、脳波の一種である“徐波”と“睡眠紡錘波”の連携です。
参考文献
Unlocking the science of sleep: how rest enhances language learning
https://www.unisa.edu.au/media-centre/Releases/2024/unlocking-the-science-of-sleep-how-rest-enhances-language-learning/Slow oscillation-spindle coupling predicts sequence-based language learning
https://doi.org/10.1523/jneurosci.2193-23.2024
脳内で進行する記憶の整理

私たちが新しい言語を学ぶとき、脳は単語や文法を整理し、記憶として固定化する作業を行います。
このプロセスにおいて、ノンレム睡眠が極めて重要です。ノンレム睡眠中、脳は深い休息をとる一方で、学習した内容を長期記憶として保存します。
この作業を支えるのが徐波と睡眠紡錘波の活動です。
徐波は、神経細胞がゆっくりとしたリズムで同期して活動する現象で、学習した情報を海馬から大脳皮質へ転送する役割を果たします。一方、
睡眠紡錘波は短く鋭い波形の脳波で、記憶を細かく整理して強化する役割があります。
この2つが連携することで、情報が効率よく整理され、脳内に定着します。
これらのプロセスは、単に情報を保存するだけでなく、関連性を見出し、より使いやすい形で記憶を構築する重要な時間を作り出しています。
睡眠が言語学習に与える効果

今回の研究では、英語を母語とする成人35人を対象に、人工言語であるMini Pinyinを使った実験が行われました。
参加者は学習後に睡眠を取ったグループと、睡眠を取らないグループに分けられ、その後記憶力がテストされました。
結果、睡眠を取ったグループは特に語順の習得において記憶力が大幅に向上していました。
脳波の解析では、徐波と睡眠紡錘波が連携することで、海馬に保存された情報が大脳皮質に転送され、長期記憶として固定されていることが確認されました。
この連携が強いほど、学習効果が高まることも判明しました。
特に、語順や文法構造のような規則性の高い情報は、脳内でパターンとして処理されやすく、これが睡眠の恩恵を受けやすい理由とされています。
また、睡眠を取らなかったグループでは、学習した内容の定着率が著しく低下し、一部の情報が忘れられる傾向が見られました。
この結果は、睡眠が新しい情報を記憶に固定するだけでなく、不要な情報を整理し、効率的な記憶保存を助けることがわかりました。
良い睡眠を確保するために

こうした研究結果から、新しい言語を学んだ直後に質の高い睡眠を取ることが重要であるとわかります。
特にノンレム睡眠を促すためには、以下のポイントが推奨されます
- 暗く静かな環境を整える
明るい光や音があると睡眠の質が低下するため、就寝前に環境を整えることが大切です。 - 就寝前にブルーライトを避ける
スマートフォンやPCの画面から発せられるブルーライトは、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を妨げるため、避けるべきです。 - 生活リズムを安定させる
毎日同じ時間に就寝と起床を行うことで、体内時計が整い、より深いノンレム睡眠を得ることができます。
さらに、日中の適度な運動も睡眠の質を高める効果があります。
運動をすることで体温が上がり、その後の体温低下が深い睡眠を促進します。
また、学習した内容を定着させるには、学習後にできるだけ早く眠ることが重要です。
これにより、脳が情報を効率的に整理し、知識として深く定着させることができます。
睡眠の持つ力
今回の研究は、睡眠が単なる休息ではなく、脳が「データ解析」を行う重要な時間であることを示しています。
睡眠中の脳は、新しい情報を整理し、長期記憶として保存するだけでなく、既存の記憶との関連性を見つけ出すことで、学習内容をより深く理解する助けとなります。
言語学習を含むあらゆる学びにおいて、睡眠は欠かせない要素です。
新しい知識を得た日には、しっかりと眠ることで、脳の力を最大限に引き出しましょう。
質の高い睡眠を習慣化することで、あなたの学習能力はさらに向上するでしょう。
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