日常生活の中で、誰もが一度は「嘘」をついた経験があるでしょう。それは友人との約束を断るために「忙しい」と言ったり、同僚を気遣って「その服、すごく似合ってるね」と褒めたりといった場面で発生します。このような嘘は必ずしも悪意から生まれるものではなく、むしろ人間関係を円滑に保つための「優しい嘘」として捉えられることもあります。
一方で、嘘には社会的な混乱を招くものもあります。不正広告や政治家の虚偽発言、信頼を裏切る浮気や隠し事など、嘘の影響は軽微なものから深刻なものまで多岐にわたります。それでは、人はなぜ嘘をつくのでしょうか?また、その動機にはどのような性格特性が影響を与えているのでしょうか?
米セント・メリーズ大学のジェニファー・マッカーサー氏らによる研究では、嘘をつく理由を11の動機に分類し、それらが性格特性とどのように関連しているのかを調査しました。この研究の結果、嘘をつく動機が性格によって異なることが明らかになっただけでなく、人が最も頻繁に使う嘘に関する意外な事実も浮かび上がりました。
参考文献
What Do Your Lies Say About Your Personality?
https://www.psychologytoday.com/intl/blog/the-teen-doctor/202307/what-do-your-lies-say-about-your-personalityResearch Reveals the Most Common Reasons People Lie
https://www.psychologytoday.com/intl/blog/finding-a-new-home/202207/research-reveals-the-most-common-reasons-people-lieLying motivations: Exploring personality correlates of lying and motivations to lie
https://psycnet.apa.org/record/2022-44652-001
嘘をつく動機を分類する11項目
この研究では、嘘をつく理由を以下の11項目に分類しました。
- 否定的な評価を避けるため:例えば、「試験の点数が悪かった」と親に言えず、「平均点は取れたよ」と嘘をつく場合。
- 罰を避けるため:仕事でミスをした際に、「まだ作業が終わっていません」と誤魔化すケース。
- 自己顕示欲を高めるため:自分をよく見せるために、経験や実績を誇張して話すこと。
- 報酬を得るため:ボーナス目当てで「プロジェクトは順調です」と嘘をつく場合。
- 衝動的な嘘:特に理由もなく、日常的に嘘をついてしまう。
- 不注意からの嘘:勘違いや思い込みによる間違いを訂正せず放置。
- 騙す喜びを得るため:友人に偽の情報を教えて驚かせ、「嘘だよ」と笑う。
- 秘密主義の嘘:知られたくない秘密を守るために「忙しい」と理由を作る。
- 保守的な嘘:批判されている友人をかばうために、「そんなことするはずないよ」と言う。
- 社会的な嘘:場の空気を壊さないために「美味しいね」と本音を隠す。
- 利他的な嘘:他人を守るために「一緒にやった」と肩代わりをする。
研究では、これらの動機について参加者に質問し、過去6カ月間にどの動機で嘘をついたことがあるか、またその頻度を尋ねました。同時に性格特性に関する質問紙も用いて、嘘の動機や頻度と性格の関連性を分析しました。
実験結果から見えた意外な傾向
調査の結果、約77%の参加者が週に3回程度しか嘘をつかないと回答しましたが、自己申告に基づくデータであるため、実際にはこれよりも頻度が高い可能性があります。最も多かった嘘の動機は、意外にも「他者を傷つけないため」や「他人を守るため」といった利他的な理由でした。次いで「秘密を守るため」や「否定的な評価を避けるため」の嘘が多いことが分かりました。
一方で、利己的な動機、たとえば報酬を得るためや自己顕示欲を満たすための嘘は、頻度としては少数派でした。これにより、人は自分の利益のためだけに嘘をつくわけではなく、むしろ人間関係や社会的なつながりを守るために嘘をつくことが多いという事実が浮き彫りになりました。
性格特性と嘘の動機の関係性
さらに、性格特性と嘘の動機には明確な関連性があることも分かりました。
- 真面目な人は、道徳心や責任感が強く、嘘をつく頻度が少ない傾向があります。こうした人々は約束を守り、正直さを大切にするため、隠し事を避ける傾向にあります。
- 心配性の人や協調性が高い人は、気まずい状況を回避するために嘘をつく傾向が強いです。たとえば、「忙しいから行けない」と言って誘いを断る場合などが挙げられます。
- 外向性が高い人は、衝動的な嘘をついたり、肯定的な印象を得たいという理由から自分の実績を誇張して話すことがあります。会話を盛り上げたい、注目されたいといった欲求が背景にあります。
- 創造性の高い人は、他者への配慮や優しさから嘘をつく傾向があります。彼らは、相手を思いやるために本当の気持ちを隠すことが多いようです。
嘘とコミュニケーションの未来
この研究は、嘘が必ずしも悪意から生まれるものではないことを示しています。嘘をつく理由の多くは、他人との関係を守るためであり、必ずしも自己中心的な目的ではありません。ただし、嘘が積み重なれば信頼を損なうリスクもあります。嘘の「種類」と「動機」を意識し、自分や他者のコミュニケーションを見直すことで、より良い人間関係を築くきっかけになるかもしれません。