なぜTSMC社員だけ子どもが多い?半導体企業が生んだ育児支援の奇跡

台湾が世界屈指の少子化に直面している中、半導体大手のTSMC(台湾積体電路製造)の従業員だけが異例の出生率を記録し、注目を集めています。

TSMC従業員の子どもは、台湾全体の出生数の1.8%を占め、50人に1人が「TSMCの赤ちゃん」という状況です。

なぜTSMC従業員はこれほど子どもを持つ傾向が高いのでしょうか?

参考文献

Boom: On the higher fertility of semiconductor workers

https://www.boomcampaign.org/p/on-the-higher-fertility-of-semiconductor

Focus Taiwan: TSMC employee newborns in Taiwan make up 1.8% of country’s 2023 total https://focustaiwan.tw/society/202403290012


少子化が進む台湾とTSMCの対照的な出生率

台湾の少子化は世界的にも深刻で、2023年の合計特殊出生率(TFR)はわずか「0.87人」となっています。

しかしTSMCは、2023年に生まれた新生児の1.8%が同社の従業員の子どもであることを発表しました。

TSMCの従業員数は台湾の総人口のわずか0.3%にすぎません。

それにもかかわらず、同社社員からの出生率が異様に高い背景には、TSMCが提供する家族支援プログラムと、社員が享受する経済的安定があると考えられます。


「TSMCチャイルドケア給付プログラム2.0」が出生率を押し上げる

TSMCは「家族に優しい職場」を掲げ、従業員向けに充実した育児サポートを提供しています。

中でも注目されているのが「TSMCチャイルドケア給付プログラム2.0」です。

このプログラムでは以下のサービスが提供されています。

  • 長時間託児サービス:7時から20時までの保育体制。
  • 幼稚園併設:2〜6歳の未就学児が対象の幼稚園が各キャンパスに設置。
  • 週末の科学キャンプ:従業員の子どもが科学や自然を学べるカリキュラムを提供。

さらに、親である従業員には柔軟なシフトが適用され、授乳室や搾乳スペースも完備。

妊婦には第1子で12週間、第2子で16週間、第3子で20週間の産休が提供されるなど、働く親を支える環境が整備されています。

TSMCは「子育てとキャリアは両立できる」というメッセージを繰り返し発信し、親になることが従業員のキャリアに悪影響を及ぼさないことを強調しています。


「子育て文化」の形成と伝播効果

TSMCの取り組みは、単なる福利厚生を超えて、職場内に「子育て文化」を根付かせています。

同僚同士で子育ての姿が日常的に見られる環境が、「子どもを持つことが自然でポジティブな選択肢」とする意識を育んでいるのです。

イタリアの南チロル州でも同様の取り組みが見られます。南チロル州は、家族向けの公共交通機関や手頃な保育システムを30年以上継続して提供しており、結果としてイタリア国内でも高い出生率を維持しています。

こうした「子育て文化」が形成されると、職場の仲間の影響が大きくなります。

例えば、イタリアの調査では「同僚の出生率が1%低下すると、自身が子どもを持つ確率も0.3〜0.4%低下する」という結果が報告されています。

TSMCの職場では逆に、「子育ては実現可能で素晴らしいことだ」という前向きな伝播効果が広がっていると指摘されています。


経済的安定と社会的地位が後押し

経済的な安定は出生率の向上に直結します。

TSMCの従業員は、社会的に安定した職業に就いているだけでなく、高い収入を得ています。

台湾のシリコンバレーとも称される新竹サイエンスパークがある新竹県は、台湾で最も平均世帯収入が高い地域です。

新竹県では、14歳未満の人口が29%と、台湾全体の平均(11.9%)を大きく上回っています。

新竹市は出生率が高く、台湾で唯一、14歳未満の人口が65歳以上の人口を超える地域です。

TSMCの本社が位置する新竹県における児童扶養率は27.7%と、台北市(16.4%)や新北市(19.7%)を大幅に上回っており、同地域が「子どもを育てやすい環境」であることが数字にも表れています。


TSMCの出生率成功が示す未来へのヒント

TSMCの例は、少子化対策において『働きやすさ』と『子育て支援』がいかに重要であるかを示す代表的な事例です。

経済的安定、育児サポートの充実、そして「子育て文化」の醸成という3つの要素が組み合わさることで、出生率を大きく向上させることが可能であると証明しています。

台湾全体が少子化に直面する中、TSMCの成功モデルは他の企業や国にとっても重要な参考事例となるでしょう。

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