近年、アメリカの学校では生徒同士の暴力が深刻な社会問題となっています。
特に、スマートフォンを使って暴力の様子を撮影し、SNSで拡散する行為が暴力行為をさらに煽っているという指摘があります。
2023年、ワシントンD.C.の教職員組合が行った調査によると、42%の教師が「過去1年で学校内の暴力が大幅に増加した」と回答。
また、55%の教師が「生徒同士の暴力を目撃した」と述べています。
こうした現状は、スマートフォンとSNSの普及によって、暴力が単なる衝突ではなくエンターテインメントとして扱われるという、根深い問題を浮き彫りにしています。
参考文献
How Student Phones and Social Media Are Fueling Fights in Schools
https://www.nytimes.com/2024/12/15/technology/school-fight-videos-student-phones.htmlOpinion: Youth violence is on the rise. Is social media to blame?
https://www.theglobeandmail.com/opinion/article-kids-are-growing-more-violent-is-social-media-to-blame/
スマホが暴力を煽る?リビア高校での乱闘事件
2024年4月、マサチューセッツ州リビア高校で発生した乱闘事件は、この問題の象徴的な出来事でした。
十数人のティーンエイジャーがカフェテリアで殴り合いを始め、テーブルや椅子をひっくり返すなどの騒ぎを起こしました。
目撃者によると、多くの生徒がその様子をスマートフォンで撮影し、SNSで拡散していました。
乱闘の知らせはSNSやメッセージアプリを通じて学校中に広まり、さらに多くの生徒がカフェテリアに集結。
教師たちは混乱を鎮めるために出入口を封鎖し、警察に通報する事態となりました。
この事件では、17人の生徒が停学処分を受けています。
SNSが暴力を助長する仕組み
ニューヨーク・タイムズは、SNSが暴力を加速させる要因について詳しく調査しました。
同紙によれば、カリフォルニア州やテキサス州を含む複数の州で撮影された400本以上の暴力動画を分析。
その結果、暴力の様子をSNSに投稿する行為が、新たな衝突や報復を生む連鎖反応を引き起こしていると指摘しました。
InstagramやTikTokには、「特定の学校の暴力動画を集めたアカウント」が存在し、これらが生徒たちの間で注目を集めています。中には、暴力の被害者が命を落とすケースも報告されています。
コロナ禍が生んだSNS依存と暴力の増加
カナダでも似たような現象が見られます。
カナダの日刊紙The Globe and Mailによると、オンタリオ州では過去5年間で学校内暴力が114%も増加。
背景には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で子どもたちがSNSに没頭するようになり、暴力的なコンテンツが人気を集めやすくなったことが挙げられています。
SNSを通じて暴力が計画されるケースも増えています。
2024年5月、カリフォルニア州ノバトの中学校では、少女グループがInstagramで暴力を計画し、実際に同級生を集団で襲撃する事件が発生。
暴力行為は撮影され、SNSに投稿されました。この事件では12~14歳の少女8人が逮捕され、4人は重暴行の罪で起訴されています。
学校現場での対策と課題
暴力の拡散を防ぐため、多くの学校がスマートフォン使用の制限や校内警備の強化を進めています。
例えば、リビア高校では追加の学校警察官を雇用し、教室でのスマートフォン禁止を徹底。これにより、一部では校内暴力が沈静化していると報じられています。
一方、SNS企業も対策を講じています。
TikTokは暴力行為を示すコンテンツやアカウントの削除を進め、Instagramも暴力的な投稿に対する取り締まりを強化。
ニューヨーク・タイムズの指摘を受け、校内暴力動画を投稿していたアカウント16個を削除しました。
暴力動画がもたらす社会的な影響
暴力動画の拡散は、学校内の問題にとどまりません。
インターネット上では、生徒たちを「動物」と侮辱するコメントが見られたり、移民に責任を押し付けるような差別的な言説が飛び交ったりしています。
こうした偏見は、被害者や加害者の精神的なダメージを深刻化させる要因にもなります。
リビア高校に通う18歳のエルタ・イスマヒリさんは、「私たちの安全や感情が無視され、大人たちは私たちを『動物』と呼ぶばかり」と語っています。
このような声は、若者が抱える複雑な状況を浮き彫りにしています。
結論:テクノロジーと教育の新たな課題
スマートフォンとSNSの普及により、校内暴力が新たな形で問題化している現状は、テクノロジーと教育の交差点で大きな課題となっています。
暴力を助長するテクノロジーの負の側面を抑制しつつ、学校が生徒たちに安全で健全な学びの場を提供するためには、教育現場と社会全体の連携が必要です。