気候変動が農業に与える影響が注目されていますが、新たな研究で、日本と中国の米の品質が気候変動により低下していることが明らかになりました。この研究は、中国の陝西師範大学のXianfeng Liu氏を中心とするチームが、35年以上にわたる日本と中国のデータを分析した結果です。特に夜間の気温上昇が品質低下の主な原因であり、この傾向が将来的にさらに深刻化する可能性があります。
参考文献
Warming Leads to Lower Rice Quality in East Asia – Liu – 2024 – Geophysical Research Letters
https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2024GL110557
Climate warming is reducing rice quality in East Asia, research reveals
https://phys.org/news/2024-11-climate-rice-quality-east-asia.html
米の品質を左右する「高品質米率」とは?
研究チームは、米の品質を評価するために「高品質米率(HRR)」という指標を使用しました。これは、精米後に元の長さの4分の3以上を保持している米粒の割合を指します。この指標に基づき、中国と日本の米の品質を比較したところ、以下のような傾向が明らかになりました:
- 中国:過去35年間の平均HRRは約62%で、10年ごとに1.45%ずつ低下。
- 日本:平均HRRは約66%で、特に1996年から2010年の間に10年あたり7.6%という急激な低下を記録。
これらのデータから、両国ともに米の品質が長期的に低下していることが確認されました。
品質低下の原因:夜間の気温上昇がカギ
研究では、品質低下の最大の要因が夜間の気温上昇であると特定されました。具体的には、以下のような温度帯で品質が低下し始めることが分かりました:
- 中国:夜間気温が18℃以上。
- 日本:夜間気温が12℃以上。
夜間の気温上昇が米の品質に影響を与える理由として、高温が光合成の効率を下げ、でん粉の蓄積が妨げられることが挙げられます。また、日射量や降水量、昼間の水蒸気圧不足といった他の気候要因も、米の品質に影響を及ぼしていることが明らかになりました。
地域差と将来予測
地理的に見ると、両国とも南部よりも北部で品質が高い傾向が確認されました。これは、南部の方が赤道に近いため、夜間の気温が高くなりやすいことに関連しています。
将来のシナリオについても分析が行われ、以下のような予測が示されています:
- 低排出シナリオ:温室効果ガスの排出が抑えられた場合でも、2100年までに中国で1.5%、日本で0.5%の品質低下が予想される。
- 高排出シナリオ:特に2050年以降、品質低下が急激に進行し、中国では2100年までにHRRが5%以上低下する懸念がある。
これらの予測は、気候変動の影響が継続的に拡大する可能性を示しています。
気候変動が引き起こす新たな課題
米の品質低下は、単なる農業問題にとどまりません。これは食料安全保障や経済、さらには人々の栄養にも影響を及ぼします。特に日本や中国のように米が主食である国々では、品質低下は消費者の満足度低下や価格変動につながりかねません。
さらに、品質低下により高品質な米の生産が減少すれば、輸出市場にも影響を及ぼします。日本は高品質な米を輸出している国として知られており、品質低下が競争力を損なう恐れがあります。一方、中国は国内消費が主体ですが、人口が多い分、品質低下は国民全体の食生活に直結します。
気候変動に適応するための次のステップ
今回の研究結果は、気候変動に適応した農業技術の開発が不可欠であることを強調しています。具体的には、以下のような取り組みが求められます:
- 耐熱性品種の開発:高温環境でも品質を維持できる米の品種改良が急務です。
- 適応的な農業管理:夜間の気温上昇を緩和するため、灌漑や栽培時期の調整などの管理方法を導入する必要があります。
- 国際的な協力:日本や中国のみならず、世界中の農業研究機関が協力して気候変動に対応する取り組みを進めることが重要です。
まとめ
気候変動が東アジアの米品質に与える影響は、35年以上にわたるデータ分析からも明らかになっています。特に夜間の気温上昇が品質低下の主要な原因となっており、この問題は将来的に食料安全保障や経済に大きな課題をもたらす可能性があります。
気候変動に対応した品種改良や農業管理の革新を進めることで、品質低下を抑える努力が必要です。米は単なる食料ではなく、文化や生活に密接に結びついている存在であり、その品質を守ることは私たちの未来を守ることにほかなりません。