産業技術総合研究所(産総研)と金沢大学の研究チームが共同で行った調査により、水洗トイレ使用後の洗浄時に発生する飛沫やエアロゾル(微細な液体の粒子)の挙動が初めて詳細に可視化されました。この研究は、トイレ使用時のエアロゾルがウイルスや細菌の拡散にどのように寄与するかを示唆し、衛生管理の改善に役立つ重要な発見をもたらしています。
研究の詳細は2024年11月20日付の学術誌『科学技術の最新情報サイト「サイエンスポータル」』に掲載されています。
参考文献
水洗トイレのふた閉め、効果は? エアロゾル発生、4分の1に抑制
「トイレのふた閉めて流す」は衛生的? 飛沫やウイルスの広がり分析
【産業技術総合研究所研究】トイレのふたは閉めてから流せば衛生的、ウイルスや飛沫、開けたままより大幅減・・・ふたを開けて流した場合、エアロゾルは空中を浮遊、小さなものは個室内を数十分漂う
研究の背景と目的
水洗トイレの洗浄時、便器内の水流により発生するエアロゾルが空気中に拡散することは以前から知られていましたが、その具体的な広がりや抑制方法についての詳細なデータは限られていました。この研究では、標準的な家庭や公共施設で使用される節水型便器を用い、洗浄時に発生するエアロゾルの挙動を詳細に調査しました。
研究の目的は、トイレ環境におけるエアロゾルの飛散を抑制し、感染症リスクの低減を図るための具体的な対策を提案することでした。
主な発見
- エアロゾルの広がり 洗浄時、便器から飛び出すエアロゾルは最大で上方40cm、前方15cmの範囲に広がることが確認されました。このエアロゾルには、便器内の微生物やウイルスが含まれる可能性があります。
- ふたを閉める効果 便器のふたを閉めて洗浄した場合、エアロゾルの広がりは大幅に抑えられ、飛散量は約75%減少しました。特に上方への拡散が顕著に減り、空気中への影響が最小限に抑えられることが明らかになりました。
- 湿度の影響 室内の湿度が高いほど、エアロゾルの総体積が増加する傾向が見られました。これは、湿気の多い環境では飛散した液体粒子が蒸発しにくいためと考えられています。
研究方法
研究チームは、日本国内で一般的に使用されている節水型便器を用いて実験を実施。洗浄時に発生するエアロゾルの動きを、レーザー光と高感度カメラを使用して可視化しました。また、エアロゾルの粒子数や飛散距離を測定することで、ふたの有無が飛散挙動に与える影響を比較しました。
衛生管理への提言
この研究の結果、便器のふたを閉めてから水を流すことが、エアロゾルの飛散を効果的に抑制する最も簡単で有効な方法であることが確認されました。特に、公共施設や家庭での衛生管理の改善において、この習慣を広めることが重要とされています。
さらに、ふたを閉めることで、トイレ内の床や壁に付着する飛沫の量も減少するため、清掃の負担軽減にもつながる可能性があります。
今後の展望
研究チームは、便器デザインの改善やエアロゾル拡散を抑制するための新たな技術の開発にも取り組む方針を示しています。例えば、エアロゾルの発生そのものを抑える洗浄技術や、飛散防止効果の高い便器形状の研究が進められています。
このような取り組みにより、トイレ利用時の衛生環境をさらに向上させるとともに、感染症のリスク低減に寄与することが期待されています。
水洗トイレの使用時に発生するエアロゾルがウイルスや細菌の拡散に寄与する可能性があるという発見は、私たちの日常生活における衛生管理を見直すきっかけとなるでしょう。便器のふたを閉めてから洗浄するというシンプルな習慣が、家庭内だけでなく、公共施設や職場での感染予防にもつながる可能性があります。
今後もこの分野の研究が進展し、より安全で清潔なトイレ環境が実現することに期待が高まります。