腰痛の現状と影響
腰痛は世界中で多くの人が抱える痛みの1つであり、現代人の生活に深刻な影響を与えています。特に慢性的な腰痛は身体的問題にとどまらず、心理的、社会的な面でも多くの課題を引き起こします。
腰痛は、特に成人において非常に多くの人々が経験する症状であり、成人の約8割が障害に一度は腰痛を感じていると言われています。慢性的な腰痛は「3ヶ月以上続く腰痛」のことを言い、持続的に痛みが続くことで仕事や生活に長期的な悪影響を及ぼしてしまいます。
また、慢性的な腰痛が経済に与える影響も非常に大きいです。例えば、腰痛を発症した場合、整形外科の受診や薬(湿布など)の購入による治療費が継続してかかってしまいます。経営者視点であれば、職員が仕事を休むことによる生産性の低下なども生じてしまいます。
このように、慢性的な腰痛は何度も再発したり、長期にわたり仕事を休まなければならないことが多く、結果的に社会保障制度や保険にかかるコストが増加します。
今回は、「慢性的な腰痛は治すことができるのか?」という問いに対して、科学的な視点からアプローチし、実際に試せる方法を紹介します。
慢性的な腰痛の原因とは
慢性的な腰痛の原因には以下のようなものが挙げられます。
- 筋肉の緊張や姿勢の問題
- 椎間板ヘルニアや変形性脊椎症
- 心理的要因(ストレスや不安)
- 生活習慣や運動不足
1.筋肉の緊張や姿勢の問題
腰痛は、特定の筋肉群の弱化や過度な緊張からも生じます。例えば、腹筋が弱くなると背筋が過剰に働き、腰の筋肉に負担がかかります。逆に背中の筋肉が強すぎると前方に倒れやすくなり、腰に不自然な圧力がかかります。このような筋肉のバランスの崩れが腰痛を引き起こす原因となります。
また、長時間同じ姿勢でいることや、腰に負担のかかる動作を繰り返し行うことによって筋肉が過剰に使われ、疲労が蓄積し緊張状態に陥ります。特に腰回りの筋肉(腹筋、背筋、臀筋など)は、姿勢を支えるために常に働く「抗重力筋」と呼ばれていますが、過度に緊張すると血流が悪化し、筋肉に十分な酸素や栄養が届かなくなります。これが痛みや不快感を引き起こします。
2.椎間板ヘルニアや変形性脊椎症
椎間板ヘルニアや変形性脊椎症は、首からお尻まで続いている「脊柱」が変形する病気です。脊柱にある椎間板の中には神経が通っており、脊柱変形により神経が圧迫されることで痺れや脱力感が生じます。これらの病気は脊柱の変形が原因となるため、慢性的に症状が継続したり徐々に増悪することが多いです。
3.心理的要因(ストレスや不安)
ストレスは筋肉の緊張を引き起こし、特に腰回りの筋肉が硬直しやすくなります。これにより血流が悪化し、痛みを引き起こしたり悪化させたりします。また、慢性的なストレスは自律神経のバランスを崩し、痛みの感受性を高めることがあります。
さらに、不安や抑うつ状態は痛みの耐性を低下させ、腰痛の症状を悪化させる要因とされています。抑うつ状態の人は、身体の不調を過剰に意識しやすくなるため、腰痛を強く感じることがあります。
4.生活習慣や運動不足
デスクワークやテレビ視聴などで長時間座り続けると、猫背や骨盤の後傾など、悪い姿勢が習慣化し、腰に負担が集中します。また、同じ姿勢を続けることで筋肉の血流が悪くなり、筋肉が疲労しやすくなることでも腰痛が生じてしまいます。
運動不足による体重増加も腰痛を生じる原因となります。体重が増えると腰椎や椎間板への圧力が増加し、腰痛のリスクが高まります。また、体重が増えても筋力が維持されない場合、腰を支える能力が低下してしまい腰痛が生じてしまいます。
慢性的な腰痛は治せるのか?科学的根拠から見る可能性
慢性的な腰痛は「完全には治らない」と思われがちですが、適切な治療とケアを続けることで大幅な改善が期待できます。ここでは腰痛に対する科学的根拠を示した研究をご紹介します。
慢性期の非特異的腰痛に対する治療に難渋することが多く、様々な治療法が試みられているが、運動療法、認知行動療法、薬物療法は高いエビデンスレベルの治療手段であり、これら3つを連携して用いることにより相乗効果が期待できる。
腰痛に対する運動療法ー理学療法的視点からー 脊髄外科ジャーナル
慢性および再発性腰痛の管理に有益であることが示されているアレクサンダーテクニックを用いた無駄な緊張のない理想的な姿勢へのアプローチは、骨盤を過度に前傾させるなど良好なアライメントを構築することにより、椎間板圧縮力の軽減を主とする腰部負担軽減効果があることが示唆された。
職場における腰痛の効果的な治療法等に関する研究 厚生労働省HP
このように、腰痛に対するポイントは痛みをゼロにすることが目標ではなく、少しでも痛みを軽減させていくことです。そのためには、身体と心理の両面からのアプローチが効果的になります。
慢性的な腰痛を改善するためのアプローチ
慢性的な腰痛を改善するためのアプローチは3つの視点に分けられます。
- 身体的アプローチ
- 心理的アプローチ
- 専門家のサポート
1.身体的アプローチ
腰痛の運動療法には、ウォーキングや自転車などの有酸素運動、腹筋を強化する運動、ストレッチングなどが挙げられます。
〇ウォーキング
ウォーキングは、腰や体幹の筋肉を無理なく鍛える有酸素運動です。特に、脊柱を支える深層筋(多裂筋、腹横筋)を活性化させる効果があります。これにより、腰椎への負担が軽減され、腰痛の改善につながります。また、筋肉を適度に動かすことで腰回りの柔軟性が向上し、筋肉の硬直やコリを防ぎます。
ウォーキングの目安は「やや疲れた」程度の疲労を感じる距離と時間です。無理に距離を伸ばしてしまうと怪我に繋がってしまいます。2日に1回のペースで続けることが理想です。
〇腹筋運動
腹筋(特に腹横筋や腹直筋)は、体幹の一部として骨盤と腰椎を支える重要な役割を担っています。腹筋を鍛えることで腰椎が過度に動いたり歪んだりすることを防ぎ、腰痛を改善・予防できます。腹筋が強化されると、骨盤が正しい位置に保たれ、姿勢の改善にもつながります。
腹筋運動は「頭を上げておへそを覗く」運動から始めることがオススメです。慣れてきたら手を伸ばした状態での腹筋や、手を頭の後ろに置いた状態での腹筋運動に切り替えていきましょう。10回×2セットを継続して行いましょう。
〇ストレッチ
ストレッチが腰痛を改善させる要因は、筋肉や関節を柔軟にし、血流を促進して身体のバランスを整えることにあります。腰背部の筋肉の緊張を和らげて姿勢を改善することがポイントになります。
ストレッチは仰向けでの実施がオススメです。両手を伸ばす、片膝を抱える、両膝を抱えることで腰背部の筋肉を伸ばすことができます。1種目あたり30秒間ストレッチするようにしましょう。
2.心理的アプローチ
腰痛を改善するためには心理的アプローチも重要です。
〇認知行動療法
認知行動療法とは、ネガティブな思考をポジティブに変える方法です。腰痛は「痛い」「辛い」などネガティブな感情が主となりますが、認知行動療法では、「腰痛を機に腰に負担がかからない動き方を学ぼう」「腰痛を機に生活習慣を正そう」などといったポジティブな思考に変えることがポイントとなります。
腰痛を軽減するために行動する機会ができたと捉えることが重要です!
〇マインドフルネス
マインドフルネスは、痛みを客観的に受け入れ、ストレスを軽減する練習です。マインドフルネスのやり方は、①腹式呼吸を行う、②呼吸に注意を向け、自分の中に入って出ていく呼吸の流れに集中する、③周囲の音や雑念に気が散ってしまったときはもう一度呼吸の流れに意識を戻すことがポイントになります。
意識を集中するために目は瞑って行ってください。呼吸は5~10分ほど繰り返すようにしましょう。
〇専門家のサポート
自分一人で行動できない場合は、専門家のサポートを受けることも大切です。専門家には医師、理学療法士、柔道整復師、臨床心理士など、様々な方がいます。行動ができないのはどうしてなのかを見直し、原因にあった専門家に相談するようにしましょう。
誰に相談してよいか分からない場合は、かかりつけの整形外科を受診しましょう。悩みに合わせた専門家を紹介してくれる病院も多いです。
慢性的な腰痛と向き合うために
慢性的な腰痛は「治す」というより「共存しながら改善する」という意識を持つことが重要です。痛みと向き合い、生活の質を高めることが最終的な目標になります。
行動することであなたの未来が変わります。腰痛に悩むすべての人が、今からでも改善の第一歩を踏み出せるきっかけになれば幸いでっす。